地学ガイド- 岩石編
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■岩石の見分けかた

 野外での観察会や博物館で岩石の同定の依頼を受けた時など,いろんな場面で「岩石を見分けるにはどうすればいいのですか?」とか「岩石の種類を見分けるのに適当な図鑑類はありますか?」,あるいは「岩石を見分けるのにどういう勉強をすれば早くできるようになりますか?」という質問を受けることがあります.その時には,「早道はありません.とにかく地道に経験をつんで数多くの岩石を観察することです.図鑑類は多く出版されていますが,図鑑と見比べてもなかなか種類を決めることは難しいです.」と答えています.そう言ってしまうと身もふたもないように聞こえますが,仕方のないことなのです.私たちが岩石の見分け方を身につけたのも,大学の「岩石学」の講義の内容以上に,大学院の先輩に連れられてフィ−ルドに出かけては自分で分らない岩石の見分け方を一つ一つ教えてもらうという積み重ねの結果なのです.
 
それは,岩石と言うのは色や形で種類が決まるものではないからです.昆虫や植物の場合には形と色が種を分類する重要な基準になります.そのために,良質な図鑑類を使用すれば種類を見分ける大きな手助けとなります.
 それに対して岩石の場合は図鑑類をみてもなかなか自分では種類を決めたり,分類することができません.これは岩石が,さらに小さな単位としての鉱物の集合からできているということによっています.つまり岩石の種類を見分けるにはまづ鉱物を見分ける能力が必要ということになります.その上で鉱物の種類や組合わせ,鉱物ごとの割合・形・鉱物どうしの関係を観察して岩石の種類が決まります.
 
マグマが地下深くで固まってできる深成岩の一つの花こう岩の特徴は,「主に,石英・カリ長石・斜長石と少量の黒雲母などからなり,完晶質で粗粒の優白質な(白っぽい)岩石」ということができます.しかし実際に見分けるにはこれだけでは情報不足です.8ペ−ジの図8のように花こう岩から閃緑岩についての分類は石英・カリ長石・斜長石の含まれる割合で決まりますが,さらに,それ以外に含まれる鉱物の種類によって例えば黒雲母花こう岩・含角閃石黒雲母花こう岩(角閃石を少量含んだ黒雲母花こう岩)・両雲母(白雲母と黒雲母の両方が含まれる)花こう岩というふうに名前がつけられます.また鉱物の粒子の大きさによって,細粒・粗粒・斑状という別の基準の分類がなされます.色調についても,含まれる鉱物(花こう岩の場合には特にカリ長石)の色によって大きく変わり,花こう岩の特徴である「白」くない花こう岩も多くみられます.このように,花こう岩を例にしても多くの(無数の)バリエ−ションがあるわけです.
 
これが,岩石を図鑑で見分けようとしてもむつかしい理由です.岩石に詳しい人に聞いておぼえるのが一番なのです.とはいっても身近に岩石や鉱物について詳しい人がいつもいるとは限りませんから,それに代わる良い方法があります.
 それは,名前がわかっている岩石標本セットを標本業者から購入して,毎日のようにそれをながめては岩石を見分けるこつをつかんでいくことです.この方法は,故益富先生が保育社の「岩石図鑑(改訂新版)」の中でもすすめています.標本は10種,20種では不足で,最低でも100種,できれば200種から300種というように標本の種類の多いセットが望ましいのです.しかし岩石標本標準セットは高価なものですから,だれもが気軽に購入できるものではありません.
 ここではそのかわりに,ビルの石材を岩石標本のセット代わりにして岩石の見分け方のこつをつかんでいきましょう.