自然史博物館 質問コーナー(発言の個別表示)

■発言したひと:植物研究室の佐久間学芸員(1998/10/05, 発言番号:82)
Re[2]: ドングリのなる木についての質問
キーワード:ドングリ コナラ クヌギ
 私が育ったのは神奈川県横須賀市の東京湾にむいた丘陵の辺縁でも、あまりドングリをつける木はありませんでした。子どもの頃、図鑑でクワガタムシやカブトムシはコナラやクヌギに多いと書いてあるのを読み、クヌギをさがしたものの、そこらにはありませんでした。
 私の家の前の海に向いた斜面は、海風のもろに当たる場所で、タブの常緑樹林だったのです。落葉樹林もミズキやケヤキそしてオオシマザクラなどの多い林でした。もちろんこのことをきちんと知るのは私が植物を学ぶようになってからの話です。横須賀ではオオシマザクラの萌芽林を薪炭利用した地域もあったそうです。「日本植生誌」(宮脇・奥田1985)を見ても、コナラを欠いたこうした二次林が三浦半島の土の深いところに分布することが記されています。
 とは言えナラ・カシ類が全くないのではなく、大人の行動半径と目を持ってすれば見えてきます。大きな神社に行ってみればアカガシやシイの巨木がありましたし、横須賀市立博物館の持っている観察園にはマテバシイの林がありました。相模湾側にはきれいなコナラの林もあります。でも、子どもの行動圏で目に付くほどではありませんでした。
 雑木林・里山といっても全国各地に個性があります。例えばそこが林業地だったらまわりには杉やヒノキばっかりだったかもしれません。一面拡がる水田地帯だったら? ハセ木に使う樹の植えられた地域や、樹のない場所などそれぞれでしょう。「子どもの遊ぶ近所」といったローカルな単位で何が目立つ樹なのか、というのは北や南だけでなく、海からの距離、その地域の産業立地、その時の造園の「流行」(「鎮守の森」の自然が重要視された頃からシイ・カシ林を模した植栽がひろまります。最近はコナラやクヌギを植えるというのも聞きます)などいろいろなことが関係するでしょう。
 環境教育の素材として「どんぐり」は注目され、それなりにひろまっていますから、私たちがどんぐりを見つけて喜ぶ、という見る側・探す側の意識の高まりの部分もあるのかも知れません。
 べつにどんぐりだけではあるまい、というのはそういう林で育たなかったもののひがみでもあり、本音でもあります。

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