イチイガシ Quercus gilva Blume
 西南日本の平地から山麓の肥沃な地に生育する樹高30メートルにも達する常緑の大高木。自然林が残っているところは少ないが、各地の神社などに巨木があり、昔日の面影を伝える。大阪近辺では、奈良公園から春日山にかけての大木群が有名。

 [葉]は倒被針形、すなわち葉の先端部1/3位のところが最も幅広い。上半部には鋭い鋸歯がある。長さ6 ~10 cmが普通であるが、ひとつの株の中でもたいへん変異が大きい。特に老木の高い枝先には長さ3 cm位のきわめて小型の葉が現れるので注意が必要である。表面は黒みがかった緑色で、はじめまばらに星状毛があるがじきに無毛となる。裏面は黄褐色の星状毛を密生する。[枝]にも、葉と同じ星状毛を密生する。2年目、3年目と、枝が生長するにつれ次第に目立たなくなる。冬芽は細長く、赤褐色の鱗片で包まれるが、先端は他のコナラ属植物のようには尖らず、鱗片の並びもまばらで、ゆるやかである。
 [花]は4月から5月にかけて、新芽の開出と同時に開く。雄花は長い尾状花序をなし、新しい枝の下部から出て垂れ下がる。雌花は新枝の上部の葉腋に1 ~2花の短い花序をなしてつく。[果実]は開花した年の秋に熟す。堅果はつやのある楕円形で、先端部に黄褐色の毛がある。大きさはきわめて変異に富む。柱頭は傘状に外を向いて開く。これは日本産の他のコナラ属にはみられない特徴で、どんぐりを見分ける手がかりとなる。殻斗には5 ~6層のリングがあり、黄褐色の毛が密生する。
 [樹皮]は灰褐色で、不規則にはげて落ちる。樹皮がはげ落ちる性質も、日本産の他のカシ類にはみられない。